豆腐屋の呼び声

小学生の頃、アメリカの作家ジャック・ロンドンの「野生の呼び声」が大好きでした。

カリフォルニアの宏大な屋敷で生れ育ったセントバーナードとシェパードとのミックスの子バックは、突然屋敷から誘拐され、そり犬として売られて苛酷な運命にさらされます。アラスカの氷原で鞭と棍棒に追われる中で、人間や他の犬とのかかわり方を学び、極寒の自然の中で生き残っていきます。

バックは最後の飼い主が死亡した後に、狼の吠え声に引き寄せられて自然の中に戻り、狼の群れの先頭に立つようになります。そして毎年夏になると、大好きだった最後の飼い主が死んだ谷に現れて、長い遠吠えをあげて去っていく、というお話です。

小学生だった私には、バックの遠吠えの孤独と悲しさが印象的で、文字ではなく本物の「遠吠え」ってどんなものなのだろう、と心に残りました。

 

さて、それから月日は流れ○十年後、上の子ども達が巣立った後、我が家はガリガリのボロボロで、人間嫌いで咬み癖のある保護犬を里親として迎えました。

保護犬は、飼い主が処分施設に持ち込んだ時点で、名前も血統も、誰に飼われていたのか、どんな生活を送っていたのか等、ワンコの過去はすべて無くなります。

ズタボロだったワンコも、今は毛も生えそろい、ふっくらして私の足元で外を通る人にワンワン吠えて、「自宅警備」に忙しい毎日です。

DSC_3252

 

 

 

 

 

 

 

ですが、家に迎えて2年が過ぎ、やっと落ち着いてきた頃、ワンコが遠吠えをするようになりました。

毎週金曜日の夕方5時半になるとやってくる、豆腐屋のトラックの「ぱ~ぷ~、ぱ~ぷ~」という音に合わせて、「ワォ~ン、ワォォオ~ン」と長く切なく、ラッパの音が聞こえなくなるまで遠吠えしています。

自分では止められないようで、ラッパの音が聞こえてくると魂の叫びのように遠吠えしています。野生の呼び声ではなく、「豆腐屋の呼び声」です。

 

ワンコが保護されたのは、東京都内だったということだけはわかっていますが、ワンコが飼われていたのは、豆腐屋さんの来るところだったのでしょうか。

生きているのに物のように処分されたそんな過去でも、未だにワンコの心のどこかに残っているのかなぁと思うと、本物の遠吠えって切ないわ~

そんな過去なんか、さっさと忘れて捨てちゃいなさい。  ♪Aki♪

1439038565703